あんなこと、こんなこと、ドイツ便り

第13話(2011年7月執筆)【故郷の言葉】

from 谷本バルタイト美枝子

私がフランクフルトに越してきたのは1989年の秋。それ以来ずっと同じアパート住まいです。
初めは一人暮らし、結婚して二人になり、そのうちネコを飼い始めて人口密度(?)は一旦上がりましたが、「夫婦ではなく、生涯、離れたところから見守りあうパートナーの方がふさわしい。」と、ある時別居し、ネコと私がこの家に残りました。
4階建ての棟に10件の住まいがありますが、たなこの大半は若い単身者かカップル、2~3年も住むと、転職したり別の住まいを見つけたりして引っ越していくのが常です。そんな中で、私が入居する10年以上も前から、ずっとここにお住まいのイタリア人ご夫婦が一組。気さくで明るくユーモアたっぷりのアニータさんと、いつもしかめっ面、「こんにちは。」と声をかけてもにらむような目でいちべつ、せいぜいこだまのように同じ挨拶を返してくるだけのピエトロさんです。

ある時、アパートのゴミ捨て場で若いインド人女性を怒鳴りつけている彼を見たことがあります。彼女がゴミ袋を所定のコンテナにいれず、横っちょに置いて去ろうとするのを叱っているところでした。「妊娠中で、思うようにコンテナの蓋に手が届かないから。」と言い訳する女性に、彼は「とんでもない。いったいこの町に何人の妊婦がいると思ってるんだ。
そんなことでゴミ一つ満足に捨てられないわけがないだろう!」と。『そんなにガミガミ叱っていないで、手を貸してあげればいいのに…。』と思わないでもない私は、それ以来、なおさらピエトロさんが恐くなりました。

このページのトップへ