あんなこと、こんなこと、ドイツ便り

第12話(2011年4月執筆)【ラクダに乗って】

from 谷本バルタイト美枝子

旅をしていました。ラクダに揺られて。
小さなラクダです。どんなに小さいかというと、自転車よりも小さいのです。
背にまたがった私の足が、すれすれで地面に届く程度です。レンタカーみたいに、旅行代理店で調達しました。「こう見えても力持ち。お客さん程度の体重なんて全然へっちゃら。長旅だって大丈夫。だから安心して行ってらっしゃい、気をつけて。」そう送り出されて始めた旅でしたが、私は半信半疑でした。
苦しそうに足をひきずって、ゆっくりゆっくり前進して行く様子を上から見ていると、なおさら不安になり、私は一旦鞍(くら)から降りて、問いました。
「本当に大丈夫?」
「もうたくさんだ。一歩も先へ行きたくない。」
正面を向いたまま、ラクダは無愛想に答えました。

私は慌てて、ラクダの休める場所を探しました。
とりあえず見つかったのは、楕円形をした競技場らしき建物の中の階段状になった座席です。ラクダはすぐに眠り始め、私はその横に座って、寝ずの一夜を過ごしました。朝になっても、ラクダは一向に目を覚ます気配がありません。さりとて、いつまでもそこに留まるわけにはいかないので、そろそろ起こしてやらねばなりません。ここから先は手綱を引いて、いっしょに歩いて旅を続ける覚悟です。
だけど、どんなに呼んでも揺すっても、ラクダは知らん顔。それでも揺り起こそうとしていると、突然カッと目を見開き、寝た姿勢のまま首だけ振りかざして、私に襲いかかってきました。
すんでのところで手を噛まれそうになった時、私は夢から覚めました。

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