あんなこと、こんなこと、ドイツ便り

第7話(2010年10月執筆)【ウールマニュファクチャー社訪問記】

from 谷本バルタイト美枝子

雨模様のフランクフルトを出たのは早朝5時、どんなに目を凝らしても、車窓にはただ真っ黒な闇が広がるばかりでした。ウールマニュファクチャーの新社屋があるオスナブリュック郊外へは、北へ約四時間の列車の旅です。やがて窓外がやわらかな朝の光に包まれると、遠くの建物も近くの木々も、一面の深い霧の中にそっと潜んでいました。

9月29日
秋はもう、こんなに駆け足です。見るともなしに、自分の乗った列車の横を流れる線路に目をやれば、にごった液の底に沈んだような二本の鋼鉄は、陽光を受けてきらめくでもなく瞬時に視界から遠ざかりながら、単調な平行線をしめし続けます。ところがあるとき(どこかの駅を通過する少し手前だったのでしょう)、列車がいくつかの線路の分岐点にさしかかりました。進行方向に背を向けて座っていた私の視線のその先で、隣の線路に左斜めから二本のラインが流れ込み、一瞬四本になったラインが二本に収束。すると今度は右斜めからやはり二本のラインが、この線路に絡み取られていきます。それはまるで、糸がつむがれていく様子を見るようでした。『きっと、いい日になる』…そんな予感がこのとき確信に変わり、たった今キュッとつむがれたレールの糸とはうらはらに、私の胸の緊張感が一気に解きほぐされていきました。

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