あんなこと、こんなこと、ドイツ便り

第1話(2010年4月執筆)【ニュルンベルクのトイフェアーを訪れて】

from 谷本バルタイト美枝子

ニュルンベルクのトイフェアーは、今年で61回目を迎えました。かつて戦前のドイツでは、玩具取引の中心はライプツィヒ(旧東独)の見本市だったということですが、東西分断後の西側で、メーカーや販売者等、おもちゃ産業にたずさわる人々の需要、要望が高まり、1949年、ごく小規模の展示会として、このフェアーが誕生したそうです。開催地としてこの街が選ばれたのは、木製玩具の他、錫やブリキのおもちゃ、人形、ぬいぐるみなどの作り手が、この周辺地域に多かったという便宜上の理由から。また当地では中世以来、手工芸による物品生産がさかんで、その優れた品質がニュルンベルクの名をヨーロッパ各地に知らしめていたという史実があります。そして、こんな背景こそが、多くの玩具生産者を生む土壌を作ったのだとも言われています。 今や、玩具の国際見本市として世界最大規模を誇るニュルンベルクのトイフェアー。会場の総面積は16万平米に及びます。例えばクリスマスのオーナメントなど美術工芸品的な特色の濃い製品から、マルティメディアを使ったゲーム類に至るまで、展示品の内容も多岐を極めることは言うまでもありません。

さて、このニュルンベルクへは、国際空港のあるフランクフルトから東南方向に列車で約2時間半。まずグリム兄弟の生誕地として知られる隣町のハーナウを通過し、医学者シーボルトゆかりのヴュルツブルクを過ぎる頃、行程のほぼ半分をこなしたことになります。
『今夜はいよいよ、日本からやってきたジョルダンのチームと宿泊先で合流』というその日、私は列車に揺られながらある不思議な感覚を楽しんでいました。進行方向に向かって座り、体は確かに列車の速度を感じて、前に運ばれていると意識しているのに、それとは比べ物にならないほどのスピードで、胸のあたりから何かがどんどん後ろに遡っていくような気がするのです。一年ぶりにジョルダンチームと再会するという懐かしさと、明日からの仕事先に嫌というほど(?)おもちゃが溢れているという意識に刺激され私の記憶がひとりでに過去へと帰って行ったのでしょうか。自分の通った幼稚園の藤棚や、うんてい、鉄棒、砂場、そしていじめっ子の顔までもが、思いがけず目の前に浮かんできます。
そんな折、私の中で翌日からのフェアに寄せるある期待が生じました。それは、作り手の中で生き続けている《子ども》に出会うことです。果たして私の期待に応えてくれた方が二名。今日はそのお二人のことを読者の皆さまにお話します。

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